唐揚げライス

先週の土曜日、嫁さんと出かける前にお昼を食べようと思ったが、嫁さんはあまりお腹が空いておらず「どこかで食べてくれば?」と言われたので、いつも行こう行こうと思いつつも中々タイミングが合わず通り過ぎていたおっちゃんが1人で切り盛りしている中華屋が近所にあったので、そこへ行くことに。

 

だがしかし、お店はお休み。

 

しょうがないので、もう1軒行きたいと思っていたこれまた中華屋があったのでそこへ行くことに。

 

無事開いていた。

 

中華料理と書かれた暖簾をくぐる。

 

カウンターとテーブル2席。

 

割烹着を着たおばあちゃんが出迎えてくれた。

奥ではおじいちゃんがラーメンの麺を仕分けていた。

 

壁に貼り付けられている黄色い短冊を見て、どれを食べようかと凄い迷った。

定食にするか?

ラーメンだけにするか?

それとも炒飯とラーメンにしちゃう?

 

うんうん唸りながらメニューを端から端まで眺めていると、唐揚げの文字に目が止まったので、

「唐揚げって定食に出来るんですか?」

おばあちゃんに聞くと、

「@%▽〇×」

聞き取れない言葉が返ってきた。おばあちゃんは歯がほとんどなかったので、空気が漏れてちゃんとしゃべれていなかった。

僕がえ?という顔をしていたので、もう一度言ってくれたのが、

「唐揚げライス?」

だった。

「そうです」

と僕は強く頷いた。

 

唐揚げライスとは、餃子の満州で唐揚げと白飯を頼むと店員さんが厨房に通す時の通称である。

中華屋ではきっとおなじみの言葉のはず。

 

おばあちゃんは僕の言葉を聞いた、厨房に入って調理を始めた。

おじいちゃんはずっと麺の仕分けをしている。

テレビの音は小さめで、とても静かで緩やかな空気が流れる空間だった。

 

おばあちゃんは何かを炒め始めた。

僕は料理が出来るまでスマホ都築響一のROADSIDERS' weeklyでも見ようかとポケットに手を入れたが、忘れていたことに気付く。

しょうがないのでテーブルの下に置いてあった雑誌を読むことにした。置かれていたの新潮や文春と類のもので、あまり見る気にはなれなかったので、仕方がなくリンネルを眺め始めた。

ページを開くとたまたま菊池亜希子さんのコラムだったので、じっくり読んでみたところ、これがとても面白かった。

写真についてのコラムで、最近は夫と子供の写真を撮ることが多いが自分が家族と写っている写真が無い、ということから始まるもので、何気ない話題だが短い中にきちんと思っていることと伝えたいことが的確に書かれていて、この人のコラムを買って読んでみようという気持ちになった。

他にも嫁さんが好きな高山なおみさんの神戸での暮らしが書かれた記事もあり、興味深く読んでしまった。

 

その途中でおばあちゃんが厨房の横にある冷蔵庫からカレーのルーらしき物を取り出しているのが見えたが、特に何も気にならなかった。カレー味の付け合わせでも出てくるのかなと。そう思った。

 

そんなことよりも、最近はスマホばかり見て読書に集中する時間が無く、全体的に注意力散漫になってきているなと、スマホを控えるかいっそのこと破壊してガラケーにでも戻そうかなと考えていた。

 

厨房からは何の音も聞こえなくなっていた。

 

その後直ぐにおばちゃんがお皿を持ってきてこっちに来た。

やった。来たぞ。約束された美味しさ。唐揚げ様のご登場だ!

 

「はい、おまちどうさま」

 

おばあちゃんがそういったかどうかは聞き取れなかったが、僕が座るテーブルに置かれたのはカレーライスだった。

僕はそれを見て思い切り目を見開いた。

そして、あっという間に点と点と線は繋がった。というか最初から線でしかなかった。

 

僕は自分の活舌の悪さを呪ったし、唐揚げライスがカレーライスと聞き返されたことを何も疑わなかった自分の思い込みの激しさに嫌気がさした。

 

おばあちゃんはニコニコしてこちらを見ていた。

唐揚げなんですと言う気もなかったし、そんな時間も無かったので、僕はいただきますとそのカレーライスを食べた。

いつの日か、どこかの家で食べた懐かしい味がした。

 

僕はお金を支払い、

「ここらへんに住んでいるんですか?」

というおばあちゃんの言葉に、

「はい。また来ます!」

と返し店を出た。

 

次は唐揚げと白いご飯を下さいと、ちゃんと注文しようと思う。

それでカレーライスが出てきたとしても、僕はまたそれを食べるつもり。

 

唐揚げライスという名のカレーライスのお話。